【西成ラプソディー#1】人情と悲哀を与えてくれたおじさん

ずいぶん昔に父親に連れられて大阪の通天閣へ行った。そのとき僕は初めて西成へ行ったんだけどそこは驚きの連続だった。西成とは東京の山谷のような場所で日雇い労働者などが多い街だ。

僕たちは動物園前駅という駅で電車を降りた。駅から出る階段のところにおじさんが前かがみの正座で座っていて1円や10円硬化をオセロのように並べていた。駅の近くの建物に人がたくさんいて親父に聞くと多分仕事の斡旋業者に仕事を貰うために集まってるのだろうということだった。

そのおじさん達をを素通りした僕たちの少し前を制服を着た3人の女子高生が横に並んで歩いている。その向こうでおじさんがおもむろにズボンを脱ぎ局部を出して立ち小便をしだした。僕はその光景に驚いたが、女子高生が全く気にもとめずに素通りをしていくことにさらに驚いた。

その子達はその後、酔っぱらいに絡まれたが「やめろや!」と一喝していた。これは全て駅から出て2、3分の間の出来事である。僕は親父に「すごいとこやな」と言って笑うしかなかった。

調べると動物園前駅よりも新今宮駅で降りたほうが西成の中心部に近いということがわかったので新今宮駅に行くことにした。

駅を出ると道路の向かい側の大きな建物を囲むようにたくさんのホームレス達の寝床が見えた。前は動物園前駅から通天閣に向かって歩いたが、あの時よりもっとディープな光景が広がっていた。場所が違うから比較は出来ないがずいぶんと街が綺麗になっているように思われる。いまは動物園前も綺麗になっているのだろうか?

僕は彼らを冷やかしに行くみたいで気が引けてしまった。ただどうせ来たから少しだけ街をまわってみようと思った。

噂で西成は酒飲みが多いので自動販売機のビールが定価より高く売られていると聞いたことがあったけどビールの販売機は僕が見た範囲では無く、ジュースが50円で売られていた。道の先に屋台が出ていて4人並んでいるので行ってみるとお好み焼きが1枚100円で売られていた。

玉出という派手な看板のスーパーマーケットで缶コーヒーを買い、店の前のガードレールに腰掛けてスマホで西成のマップを調べているとホームレスとおぼしきおじさんが話しかけてきた。上下ともに汚れたネイビーの作業着を着ていて11月頭だというのによく日焼けしていた。でも髪の毛はまるで小学生のようにサラサラでつやつやしているのが印象的だ。

「兄ちゃん、ちょっとでええさかい酒買う金めぐんでくれんか?」とおじさんは少し怯えるように言った。差し出してきた手も小刻みに震えている。

僕はとっさに「えっ、いや僕お金ないんです」と言った。スーパーの前は交差点で周りにたくさん人が居た。このおじさんにお金を渡すと他の人も寄ってくる可能性があると僕は思った。

「金持っとるやろ、まともな服着とるがな」とおじさんは僕から目をそらしながら静かな声で言った。その口調からおじさんは僕から金を貰うのはほぼ諦めているように感じた。捨て台詞だったのだろう。

僕は高価な服は着ていなかった。でもおじさんが言うようにまともな服を着ていたと思う。破れも汚れもしていなかったから。

「旅行か?」とおじさんは聞いてきた。

「いえ」僕は用もないのにここに来たとは言いづらかった。興味本位で来たことがおじさんに知れるのが申し訳なく思ったからだ。

「コーヒーしか飲まんのか?」おじさんが独り言のように小さな声でつぶやいた。

僕は「はい」と答えた。

「兄ちゃん金、困ってんのか」おじさんが訪ねた。時刻は17時過ぎだった、晩御飯の時間だ。おじさんは僕がコーヒーしか飲んでいないこととさきほど僕がお金がないと言ったことを彼の頭の中で食べ物を買う金が無いと解釈したのかもしれない。

「いえ、大丈夫です」と僕は答えたのだが、おじさんはポケットから小さく白いくしゃくしゃのビニール袋を取出しそこから300円を僕に差し出したのだ。

「こんなとこ来て座ってるからにはいろいろ理由あんにゃろ。そこのたこやきな、これで食えるから食うてこいや」とおじさんは変わらず小さな声で、ただ最初より少し自信有りげな口調で僕に言った。

自分が人にお金を貰いたいくらいな状況でも、困っている人が居ると大切なお金を躊躇なく渡す、、、西成にホームレスが集まるのはこのおじさんのようなピュアな人情で溢れている街だからなんじゃないのかな。

そしてこのおじさんのように優しすぎるから悪い人間に騙されてホームレスになっってしまったり、借金を返すために日雇い労働をしているのじゃないのかなと思った。

僕はおじさんんの申し入れを丁寧に断った。

西成の街を通って駅に戻りながら僕はおじさんから貰った純粋な優しさと、優しいがゆえにあのような衣類を着て自分の子供くらいの年齢の男に小銭を貰いにいくような彼の状況を思い、複雑な気持ちになった。

そして駅について電車に乗った。車窓から見えるどんどん離れていくおじさんのいる街を見て僕はもう一度ここに来たいなとなぜか思った。

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